梅雨なので「ノルウェイの森」をハードカバー版で読み返してました。最初に読んだのはたしか大学時代、姉の本棚にあった文庫本を拝借した記憶。それ以来だったから、あちこちおぼろげになっていたり映画版で歪められた箇所がクリアになっていくのが新鮮で、一行一行ゆっくりと読んだ。

以前なら流し読みしてたような本筋とは関係ない箇所も、音楽やお酒の時間がこよなく好きでそのために働き生きているのではとすら思えてる今の私にはとんでもなく響く。なかでも僕ワタナベが直子が入所する療養施設を訪れた夜にレイコさんがギターをつま弾くシーン。映画版でも霧島れいかさんがハマり役でしたけど。

レコードが終るとレイコさんはベッドの下からギター・ケースを出してきていとおしそうに調弦してから、ゆっくりとバッハのフーガを弾きはじめた。ところどころで指のうまくまわらないところがあったけれど、心のこもったきちんとしたバッハだった。温かく親密で、そこには演奏する喜びのようなものが充ちていた。

 

去る5月に舞台ではじめてバッハを弾いたばかりの私には、ギターでバッハを弾くということの意味合いがちょっとわかるだけになおさら。

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今回私が弾いたのは「無伴奏チェロ組曲第1番 プレリュード」。1冊目の教本の最後に載っているクラシックギタリスト中級者への入り口のような曲ですが、正直、この曲に本格的に取り組むまでバッハの魅力をなんにもわかってなかったなって思う。どちらかというとノリのよいスパニッシュな曲が好みのわたしには、一体どこが盛り上がりなのと曲の区別がつきづらく(あまちゃん…)。

でも今回プレリュードをステージで弾くことになり、ひととおり暗譜で弾けるくらいになってからも何度もレッスンで見てもらい磨きあげていくと… あらびっくり。弾いても弾いても飽きず 弾けば弾くほど気持ちよくなり 昼下がりの陽が射し込む小さなレッスン室が荘厳な空間に感じられるほど。多くの演奏家がバッハに挑み続けるワケってこういうことなのかとほんのりわかったような。

「まるでミュージシャンだね」と友人につっこまれるほど今や定期的にギターイベントが組み込まれてる最近の私のスケジュール。

次はサマーコンサートでのデュオ演奏が控えてる。パートナーがいる分、いくぶん気が楽かな。弾くのはアルゼンチンのギタリスト、プホール (Máximo Diego Pujol)の「センテナリオ通り」という現代曲。バッハとは全然違うノリ。ドイツ人デュオが線路で弾いてるこの演奏が超絶かっこいいです。

余談ですが、プホール氏のウェブサイトにあるプロフィール文がすごくいいです。ギタリストのプロフィールって大抵は「◯才からギターを習う」「△氏に師事」「xx で演奏」みたいな事実が羅列されてるだけだけど、彼のは「ブエノスアイレスの閑静な郊外にある実家の押入れに1本のギターを見つけたことからすべては始まった」と物語風で。

http://www.maximopujol.com

12月にはギターの資格試験みたいなのを受ける予定。クラシックギター弾きとしてマスターしておくべき代表曲「愛のロマンス」「ラグリマ」「アルハンブラの思い出」、そしてエチュードなど合計14もの課題曲を教室の先生方の前で弾いて判定を受ける面接試験みたいなもの。内部的なものなので教室外で潰しが効くものではないのだけど、習って5年を過ぎたら受ける資格があるものなので早速受けてみようかと。

そんなわけで最近は一度パスした曲たちをおさらい弾きすることにいそしんでいる。新曲に挑戦するワクワク感はないけど、この基礎固め的な時期はこれから長く続くであろうギター生活に後々効いてくるんじゃないかなと願いながら。急がばまわれ。

「ノルウェイの森」の中でレイコさんも言ってます。

ある年齢をすぎたら人は自分のために音楽を演奏しなくてはならないのよ。音楽というのはそういうものなのよ。